ピンに!? ピンで!? ひとりで僕が!? ①

お笑いコンビを解散することになったのは、相方からの申し出でした。

彼は、引退し実家に帰るという。

その電話を受けたのはネタ見せを控えた前日か前々日かといった昼下がりのこと。

あまりにも唐突なその衝撃に言葉を失った私はまずこれが現実なのかという確認からしなければならず、彼の話す事情をすぐには飲み込めない。だったら、俺がこうするああするからと解決策らしきあやふやなものを咄嗟にとにかく吐き出すことで、その綱みたいなものを手繰り寄せようと必死でした。そして、私は崖から落ちました。現実と、わかりました。

相方に落とされたのではありません。私が勝手に落ちたのです。

そして、大好きな、夢だった、お笑いの仕事をやめる決断をした相方の決断を尊重しなければならないにもかかわらず、私という相方は最後まで彼に厳しい言葉を投げかけてしまうのです。

「解散はわかった。その事情があるにしても。もしないとして、俺とじゃやれないということだとしても。お前は笑いをやめるな。才能があるし、みんなお前を欲しがる。お前はおもしろいんだから。そんなことでやめるな」

そんなこと。………一体、何様なんだか。男と女の別れ話みたいな電話でもある。だけど、サヨナラなんて言えない。

それから彼が今どこでなにをしているかは知り得ませんが、彼と彼のご家族の幸せを、今この瞬間も私は祈っています。あの時の決断は間違ってはいない。現実が正しいのだ。


解散しました。数時間後、マネージャーに連絡をいれました。数十秒、怒られました。

「で、解散してお前どうすんの? 新しい相方探すの?」

「いやあの、新しい相方っていうのは‥‥‥」

「覚えてるか? お前らがオーディション勝ち抜いてうちの事務所入ってきたときのこと。あれ、100組以上受けに来てんねんで。受かったの4組や。コンビで受け入れてんねんで」

「‥‥‥はい」

「ピンでやれんの? いやピンでやれんのか聞いてんねん。そしたら、とりあえず1年やな。1年がんばってみ。でまた、考えようや」


ピンに!? ピンで!? ひとりで僕が!? ‥‥…無理だろ。


言われて初めて考えるのです。

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